【全13柱】千と千尋の神隠しに登場する神様の一覧と神様のモデルをわかりやすく解説【ジブリ】

今回はスタジオジブリの人気作品「千と千尋の神隠し」に登場する神様の一覧の紹介と、千と千尋の神隠しと日本神話の関連性に関してお伝えしていきたいと思います。

千と千尋の神隠しと日本神話の共通点やモデルとされているエピソード

千と千尋の神隠しのストーリーと、古事記に記されている日本神話にはいくつかの共通点があります。

別の世界の食べ物を食べて帰れなくなる

千と千尋の神隠しでは、物語の序盤に不思議なトンネルをくぐった千尋のお父さんとお母さんが、その先で見つけたお店で勝手に食べ物を食べてしまいます。それが原因で二人は豚に姿を変えられてしまい、元の世界に帰れなくなるのですが、古事記でも似たエピソードがあります。

古事記では、イザナギとイザナミという夫婦の神が登場し、2人は2本という国を作る仕事をします。しかしその途中、イザナミはカグツチという火の神を生んだことで死んでしまい、黄泉の国にいってしまいます。それにショックをうけたイザナギは、黄泉の国におもむいてイザナミを迎えに行きます。しかしイザナミは「ヨモツヘグイをしてしまったため現世には戻れない」といいます。このヨモツヘグイというのは「黄泉のかまどで煮炊きしたものを口にすること」です。イザナミも、千尋のお父さんとお母さんと同じように、別の世界の食べ物を食べてしまい元の世界に帰れなくなってしまいました。

「見るなのタブー」が描かれている

物語の終盤、千尋が名前を取り戻して元の世界に戻るシーンで、ハクに「決して振り返ってはいけない」と言われます。この理由は劇中では明らかになっていません。結果的に千尋は振り返らずにハクとの約束を守ることになりますが、これは「見るなのタブー」という多くの神話で見られる有名なモチーフです。

この「見るなのタブー」は古事記でも扱われています。上記のイザナギとイザナミのエピソードの終盤、黄泉の国に迎えにきたイザナギに対して、イザナミが「元の世界に戻れるように、読みの神々に相談してきます。その間、決してこの扉を開けてはいけません」と言って黄泉の神々が住む御殿に入っていきます。しかし我慢ができなくなったイザナギは、その扉を開けてしまって、イザナミの変わり果てた姿を目にしてしまいます。

千と千尋の神隠しに限らず、スタジオジブリの映画は世界の神話をモチーフに作られているものが多いです。

千と千尋の神隠しに登場する神の一覧

ではここからは千と千尋の神隠しに登場する神様をご紹介します。千と千尋の神隠しは登場人物が多く、1度見ただけではすべての人物を判別するのは難しいかもしれません。神様は名前も登場していないものも多いですが、それぞれの神様の背景を知ると、千と千尋の神隠しがさらに楽しく観ることができると思います。ぜひ参考になさってください。

オシラサマ

この画像の中央上部、松の木の陰にいる赤い盃をかぶった白い大根のような神さまがオシラサマです。出典:公式サイト

オシラサマとは主に東北地方で信仰されている神で、家や蚕、農業、馬を象徴する神様と言われています。伝承としては宮城県、山形県(オコナイ様)、福島県(オシンメイ様)、茨城県に伝わっています。

千と千尋の神隠しの劇中では、大きな白い大根のような外見で、赤い盃を頭にかぶった姿で描かれています。これはオシラサマが家や蚕、農業などを象徴する神として崇められていることが由来として考えられます。

劇中では千尋といっしょに油屋のエレベーターに乗り込み、千尋が人間だということがバレないように隠してくれたり、そのまま湯婆婆のところまで送り届けてくれるなど、寡黙ですがやさしい神様として描かれています。

上記の画像にある、千尋が現実世界に戻ろうとするシーンでも、豚の中に自分の親がいないことを千尋が当てた時には扇をもって喜んでいました。

岩手県遠野市の観光施設「伝承園」には御蚕神堂(おしらどう)という施設があり、そこには千体のおしら様が展示されていますので、ご興味ある方はぜひ足を運んでみてください。

ニギハヤミコハクヌシ(ハク)

ハクこと「ニギハヤミコハクヌシ」出典:公式サイト

油屋で働いている美少年。その正体は千尋が小さい頃に住んでいた家の近くを流れていたコハク川という川の神さまです。白竜の姿になることもできます。

名前のニギハヤミコハクヌシは、古事記や日本書紀に登場する「ニギハヤヒノミコト(邇芸速日命)」とされていますが、神格やエピソードなどの関連は見られません。また、ロマンアルバムによると「本性は蛇」という記載もありました。

春日様(かすがさま)

何柱もの春日様が船から降りてくる様子 出典:公式サイト

春日様は物語の序盤に千尋が油屋の世界に迷い込んで夜が訪れた時に、船から列をなして降りてくるシーンが印象深いです。

人間のような姿に見えますが、顔も体も見えず船から降りるまでは舞楽面の一種である蔵面だけが見ることができます。また、冠をかぶって手には笏を持っていることから、男性の神様であることが推察されます。

ちなみにこの蔵面は、春日大社で行われる舞楽で実際に使われている面です。舞楽の曲目ごとに描かれる顔の図柄が異なっているのですが、作中のものは実在する曲目「蘇利古(そりこ)」に用いられる蔵面であるとされています。

引用:楽記

春日大社で行われる舞楽の面をつけており、名前も「春日様」であることから、春日大社の「春日神」との関連を考えてしまいますが、現在では春日神というのは以下の4柱の総称ことを指します。

武甕槌命(タケミカヅチ)
経津主命(フツヌシノカミ)
天児屋根命(アメノコヤネノミコト)
比売神(ヒメガミ)

また「春日様はケチな神様である」とも言われているのですが、これは昔、旅館の従業員が心付け(サービスに対して支払うお金で、いわゆる「チップ」)をくれないお客に対して「春日様」という隠語が使われていたためです。

これは「春日遅遅(しゅんじつちち)」という4字熟語にもあるように、春の日というのはうららかで、日が暮れるのが遅いことから、「(日が)暮れそうで、暮れない」→「(心付けを)くれそうで、くれない」という言い換えから来ていると言われています。

ただ劇中では心付けを渡していないシーンなどは描かれていませんし、実際にケチなのかはわかりません。終盤に千尋が豚の中に親がいないことを見破ったシーンで、オシラサマと一緒に扇子をもって踊り、喜びを表現していました。

牛鬼(うしおに)

牛鬼はおもに西日本に伝わる妖怪で、頭が牛で首から下は鬼の体を持つ獰猛な妖怪であると言われています。主に海岸に現れて人を襲うと伝えられていますが、中には悪霊を払う神の化身という伝承もあります。

神の化身とされてる説は、牛鬼の正体は「年老いたツバキの根っこ」であるという説からきています。ツバキには昔から厄や悪を払う神霊が宿るとされる伝承があり、そこから牛鬼も神の化身とみることにつながっています。

劇中では、頭に鬼のような2本のつのが生えており、顔全体を覆うような緑色の毛が生えていて、顔には春日様とはまた別の面をつけています。茶色い服を着ており、足は三本、腕や足は赤い色をしています。油屋で従業員に腕をマッサージされているシーンがありました。

油屋でくつろいでいる様子を見ると、獰猛さもあるのかもしれませんが、どことなく悪いやつではないような感じも受けます。

オオトリ様

お風呂につかるかわいらしいオオトリ様たち 出典:公式サイト

一見するとひよこのようにも見えるのは「オオトリ様」という神様です。

オオトリ様は、卵から孵ることができずに亡くなってしまったり、鶏になることができずに亡くなってしまったヒヨコの神様です。油屋に来る際には頭の上にサトイモの葉を乗せていたように見えます。トトロが雨の日に傘代わりにかぶっていたのと同じ葉っぱですね。

オオトリ様はどこかの神社で祀られている神ではありませんが、他のジブリ映画にも実は登場する神さまです。崖の上のポニョにも登場しているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

おなま様

おなま様は秋田県の伝承で有名な「なまはげ」がモチーフとなった神様です。

劇中では集団で油屋を訪れていて、白い長い髪に2本の角、下の顎から生えた大きな2本の牙が特徴です。木の葉を集めてできた蓑を着ていて、手には包丁を持っています。

なまはげ神々の使者として信じられており、年に1回家を訪ねては「悪い子はいねーがー」「怠け者はいねーがー」と住人に声をかけます。こうすることでなまはげは人々に訓戒を与えて厄災を払い、豊漁・豊作をもたらすとされています。

一言主様(ヒトコトヌシさま)

ヒトコトヌシさまは、劇中ではオクサレ様が油屋に来た際に、あまりの臭さに避難する神々の中に一瞬だけ登場する神様です。「言」という言葉が書かれた赤い冠をかぶったお姿です。

ヒトコトヌシは古事記に登場しています。雄略天皇が奈良県の葛城山へ鹿狩りに行った際に「吾は悪事も一言、善事も一言、言い離つ神。葛城の一言主の大神なり」と告げたとされています。ヒトコトヌシさま自身がこう言っているように、良いことも悪いことでも、一言で願いを聞き届ける神様として信仰されています。

のの様

厨房で働く蛙男達のセリフ中に名前が登場するのが「のの様」です。残念ながら劇中に登場するどの神様がのの様なのか言及がありませんが、「お地蔵様」のことを「のの様」と言います。またお地蔵様以外にも月・太陽・神・仏など、尊いものにたいして「のの様」と呼ぶことがあり、劇中でも同様の意味合いがあったのかもしれません。

名前の由来としては「観音様(かんのんさま)」の「のんさま」から来ていると言われています。

オクサレ様

オクサレ様は、雨の降る中突然やってくる大型の神様です。最初は泥やヘドロにまみれ、悪臭を放つ神様でした。近づくだけで食べ物が腐る描写もあるほどなので、とてつもない臭いだったと想像できます。

湯婆婆と千尋が入口で出迎えたあとは、リンと千尋が接客をします。カオナシの助力もあり薬湯をつかってオクサレ様をきれいにしていきます。しかし薬湯だけでは体はきれいにならず、オクサレ様自身も自分の両手を見比べて、ちょっとがっかりするような描写があります。

オクサレ様の体にゴミが刺さっているのを千尋が見つけ、油屋の従業員といっしょに溜まったゴミをすべて出してあげると下の神様の姿に戻りました。

オクサレ様はもとは有名な川の神でした。姿は白い龍のような体に、翁のような白眉が特徴的な顔をしています。ゴミをすべてとってもらうと気持ちよさそうに「よきかな」とつぶやいて、スッキリして油屋をあとにします。

お台所様(おだいどころさま)

お台所様は劇中では千尋がハクといっしょに橋を渡るシーンでオオトリさまと一緒に登場します。

細長く赤地の布をまとったような体に、紙垂(しで)のついた大きな傘をかぶったような姿で登場しています。他の解説の記事だと、傘の縁に台所用具を下げていると書かれているものがありますが、現代の台所用具をかけているわけではありません。これは紙垂(しで)というもので、玉串などにも垂らす神のことです。清浄で神聖な場所であることを示すものです。

「台所」というのは古くは「竈門(かまど)」として火を扱う神聖な場所とされてきました。食べ物を煮炊きし、命をつなぐための大事な竈門を守ってもらうためにお台所様として祀っていたのかもしれません。

むすび様

むすび様は「縁結び」の神とされており、この名称はアニメージュという雑誌上で一般の公募で集められた名前です。

外見としてはオレンジ色の縦に長い体で、頭には茶色い髪のようなものがあります。おなかがぼってりとしていて葉団扇を持っています。

石神様

オクサレ様が来た日に、春日様と共に蓬仙湯に予約を入れていた神が石神さまです。名前だけの登場で、姿は劇中には登場していません(もしくは登場していたかもしれませんが、どれが石神様かはわかりません)

石神というのは、大きな石や形の奇妙な石を御神体もしくは依代として祀ったものを石神といいます。

ススワタリ

こんぺいとうに大喜びのすすわたりたち 出典:公式サイト

釜爺といっしょに油屋の窯ではたらいているのがススワタリです。千と千尋の神隠しの他にも、となりのトトロでも「まっくろくろすけ」として登場します。となりのトトロでもお風呂や屋根裏に住んでいましたね。

ススワタリのように、長い年月を経て物や道具に精霊が宿ったものを総称して「付喪神(つくもがみ)」と呼びます。ススワタリは「すす」の付喪神です。

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